こんにちは!
幅広い制作領域を武器に「新たな驚きと感動を作る」制作会社ジーアングル ブログ編集部です。
映画館での音響表現に留まらず、音楽のミックス方式にも取り入れられているDolby Atmos(ドルビーアトモス)。
Netflix、Apple Music等で目や耳にしている方も、以前より増えていることと思います。
そんなドルビーアトモスの立体音響技術ですが、音楽での活用以外にもバイノーラル録音を用いたASMR作品との相性がいいことはご存知でしょうか。
そこで今回、ASMR作品の効果音にドルビーアトモスを取り入れているジーアングルの音響監督、福士達哉へドルビーアトモスを用いた効果音は従来の制作法とどう違うのか、制作背景やドルビー効果音活用の展望をインタビューしてきました!
記事中でご紹介するサンプルで違いを聴き比べながらぜひご覧ください。
■ ドルビーアトモスとは何者なのか?についてはこちらから!
ASMRの効果音をドルビーアトモスで作ってみた
──本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします!
──福士さんの手がけるASMR作品では、ドルビーアトモスを効果音制作に導入しているんですよね。
はい。現在制作しているASMR作品では、効果音編集の過程でドルビーアトモスを利用しています。
──サラウンドシステムであるドルビーアトモスを、ヘッドホン・イヤホンで楽しむ前提のASMR作品に取り入れているというのは、一体どういうことなのでしょうか?
簡潔に言うと、
ドルビーアトモスの制作環境下で音響効果作業を行い、それをステレオに落とし込む過程でバイノーラル化することで、
ヘッドホン・イヤホンで楽しめる「疑似サラウンド音声」を作っていることになります。
──おお…なんだか難しく聞こえますが、それって良いヘッドホン・イヤホンを使っていなくても、違いがわかるものなんでしょうか?
ええ、イヤホンやヘッドホンのランクに関わらず、かなり明確に違いがわかるはずですよ。
サンプルを用意してきたので、ぜひ聞き比べてみてください。
──結構違いますね!? ステレオの方に奥行きを感じないわけではないですけど、ドルビーと聞き比べるとのっぺりしているというか…
そうなんです!
同じ素材でも、編集の過程でドルビーアトモスを取り入れることで、音の奥行きや高低、空間の広がりがはっきりと変わるんです。
しかも、高いヘッドホンやイヤホンを使わなくても違いがわかるという特徴もあって。
おかげさまで「環境音が心地良い」「自然の情景が伝わってきて癒される」といったお声をいただき嬉しい限りです。
──それは嬉しい!
もそもなぜそんなことを?
──個人的にドルビーアトモスは映画音響のイメージが強いんですが、ASMRとどのように繋がったのでしょうか?
そうですね…従来のステレオベースの制作環境に限界を感じていたのが始まりかなと。
──といいますと。
奥行きと高低の表現が、ステレオだと難しいんですよね。
表現できないわけじゃないけど、下から音が鳴ってると言われても「鳴ってるといえば鳴ってる…かも…?」みたいな微妙なラインで。
加えて、無理やりその位置から聞こえているよう処理をしているので、音の質…みずみずしさが著しく失われてしまう。
こもったような、ぼわっとした音になってしまうんですよ。
──確かに…サンプルもそんな印象でした。
ちょっと話がそれちゃうんですけど、
作業環境的にも構成的にも、ASMRはボイスドラマやシチュエーションドラマの発展で作られている、という背景がありまして。
ASMRの構成は上記からBGMを除いて、「声」「効果音」「環境音」の3つの要素が強くなるイメージでしょうか。
──ふむふむ。
ASMR作品の立体音響的な制作環境も、基本的に完全なステレオ作品であるボイスドラマやシチュエーションドラマの延長線上です。
──ああ、ステレオベースの制作環境というのはそこから。
そうそう、そうです。
一方、ASMRの音声といえば声はダミーヘッドマイクでバイノーラル収録するじゃないですか。
それに対して効果音や環境音はステレオパンナーという技術を使って、
モノラルとステレオの素材をバイノーラルっぽい聞こえ方に調整していました。
ですが、人間のリアルな聞こえ方に近いバイノーラル音声に対し、
効果音は本来持っている”旨み”がそぎ落とされた、鮮明さに欠けるものになっていました。
つまり、ボイスと空間音響との間にギャップが生まれていたんです。
──なるほど…!!
ダミーヘッドマイクで効果音も録ってしまう、という方法もなくはないんですが、
ダミーヘッドマイクは近い距離での高低は出せても、「遠くで鳥が鳴いてる」みたいな離れた距離感の音は高低があまり出ないんですね。
だから私も「もっと細部まで表現できないかなあ」と思いつつ、今の作業環境でできることを模索していました。
──そこにドルビーアトモスが登場するんですね。
そうです!
ここ2年ぐらいですかね、今実際に使っているProToolsというツールで、一気にドルビーアトモス編集の敷居が下がりまして。
ちょうど私の領域であるASMR作品と相性が良さそうだったので効果音に導入してみたところ、
ステレオベースの制作環境で表現されている音の、さらに奥の空間を表現できるようになって、これだ!と。
──革命が起きた!
それくらい嬉しかったですね!(笑)
今までは2D的なスペースに音を配置していたので、限られたスペースにたくさんの音を置くことになっていました。
配置が被ってしまうので、ひとつひとつの音が判別しにくくなっていたんですよね。
そこにドルビーアトモスを導入したことで、3Dな上下配置もできるようになり、空間的に余裕ができました。
配置被りが減ったことでひとつひとつの音をよりはっきりと聞き取れるようになって、臨場感が増したというわけです。
──(サンプルを思い出し)…確かに! 奥から、近くから聞こえてくるのはこの音!というのが、はっきりとわかりますね。
(頷きつつ)音質問題にも効果がありました。
もちろん処理をかけている以上音質は多少下がるんですけど、
今までの作業環境に比べて、音を汚さずに置くことができるようにもなったんですよ。
こんな感じで、作り手としては高品質なものを以前よりも簡単に作れるようになりましたし、
今お持ちのヘッドホンやイヤホンで違いを感じていただけるくらいには、聞き手にも違いがわかりやすい。
誰もがヘッドホン・イヤホンで楽しめて、臨場感のある高品質な音が、ドルビーアトモスを取り入れることで作れるんです。
──持っているもので今までより高品質なコンテンツを楽しめるのは嬉しいですね!
ドルビーアトモスでの音響効果に慣れてきたことで、私自身、従来とほぼ変わらない作業時間で制作できるようになりました。
そういうこともあって、音へのこだわりがあまりなかった・こだわることができなかった分野に対しても、もっと広めていきたいなと考えています。
効果音×ドルビーアトモスの可能性
──先ほど「もっと広めていきたい」とのお言葉が出ましたが、映画やASMRの音響以外にもドルビーアトモスの音響技術って活かせるものなのでしょうか?
はい。映画やASMRに限らずいろいろな場面に活かせると思っています。
どんなヘッドホン・イヤホンでも楽しめますからね。
──私も実感したところではありますが、どうして高いヘッドホンやイヤホンを使わなくても違いがわかるのでしょうか?
良い質問ですね!順を追って説明します。
ドルビーアトモスはサラウンドシステム、つまり、本来はスピーカーが12個とか必要なんです。
ただ、ヘッドホンやイヤホンで聞くにはステレオにする必要がある。
なのでドルビーアトモスで制作したサラウンド音声を、ステレオ音声に落とし込むことになるのですが…
ステレオに落とし込む過程でバイノーラル化の手順を挟むことで、
サラウンドの本格的な立体感を維持しながら、既存のヘッドホンやイヤホンで聞ける形式にできるんです。
──ダミーヘッドマイクで録音したような処理をかけるということですか! それでドルビーの立体感を残したまま、イヤホンで聞けるようになる…
そうです!
ステレオなんだけどサラウンドのような、立体的で臨場感のある音声を楽しめる…「高品質な疑似サラウンド」が叶うわけですね。
あくまでステレオ音声なので、いろいろなシチュエーションに活かせることに繋がります。
──なるほど…!それが編集的な敷居が下がったことで作りやすくなった…すごいことですね。
そうなんですよ!
ただ、私としては聞き手側のツール、ヘッドホンやイヤホンがどんどん発達してきていることも重要だと思っています。
そしてオーディオ機器の発達とともに、「良い音」を楽しみたいと思う人が格段に増えている。
──言われてみれば。 こだわりの程度に関わらず、誰でも音質の良いイヤホンを選ぶようになっている印象があります。
そうそう、そうなんですよね。
そんな今だからこそ、例えばアプリゲームにもドルビーアトモスの効果音や環境音が活かせるんじゃないかと。
──ゲームにドルビーアトモス!全然イメージがつかないのですが…
そこです!スマホゲームに立体音響のイメージってあまりないじゃないですか。
ドルビーアトモスの効果音で臨場感を演出できたら、より没入感のある特別な作品になると思うんです。
──そういえばグラフィックに力の入ったゲームはよく見かけますが、音での没入感を感じるスマホゲームってあんまり見ないかもしれません。
とはいえ、どんなゲームでも活かせるわけではありません。
プレイヤーの視点が動かないことが結構重要になります。
──プレイヤーの視点が動かないといいますと…?
コンシューマーゲームやFPSみたいなプレイヤーがよく動くゲームだと、
壁や窓、障害物などのマップ配置に対して、サウンドデザイナー、サウンドエンジニアの方々が全部空間設計しているんですよ。
この場合、プレイヤーが動くたびにプログラムと紐づけて鳴らすものなので、
「壁越しに声が聞こえるなら、ここには窓があるから音がこう反射して〜」みたいな設計をゲームのシステムで仕込むほうが早いというか、合ってるんですね。
一方バイノーラルなどの立体音響は、空間の音的な演出を完全に仕込んだうえでお出しする形になります。
プレイヤー・聞き手が動くのではなく、演出で情景・環境のほうを動かしていく、というと伝わりやすいでしょうか。
──あ〜!イメージがつかめてきました! プレイヤーが動いてしまうと、仕込んだ音との距離感が合わなくなってしまうということですね…?
そうです!
だからASMRやボイスドラマのような音声コンテンツと相性がいいんですよね。
視点の動かないゲームにはもちろん合いますし、視点の止まる会話シーンにだけ使うといったこともできますね。
ゲームのプログラム側での仕込みと空間音響を使い分けて、シチュエーションに合わせた臨場感を演出するのも良いと思います。
──可能性が広がりますね…!
そう思います!
効果音に限らずBGMも、サラウンド化すると「アプリゲームをするために一体いくつスピーカーを用意したらいいんだ?」となってしまいますが、
ドルビーアトモスで編集→バイノーラル化→ステレオの手順を踏むと、今までよりもBGMの臨場感を増すことができて、
ヘッドホンやイヤホンで手軽に、よりコンテンツを楽しめると思います。
──おお~!
ヒーリング系や睡眠導入系の瞑想コンテンツ、ホラー系は間違いないですね。
ガタンッていう音が耳のすぐ近くでしたら、みなさんスマホから顔上げちゃうんじゃないでしょうか(笑)
──うわぁ絶対怖いですよそれ!!
ご興味のある方はお気軽にジーアングルまで!
いかがでしたでしょうか。
Bluetoothイヤホン・ヘッドホンの普及やスマートフォン側の再生環境の発達により、膨大な出費がなくても、今や誰もが良い音を聞くことができるようになりました。
バーチャル空間やライブ音源など、臨場感や没入感のある音空間の需要は今後も高まっていくと考えられます。
ジーアングルでは、そんな空間音響の発展のキモとなるDolby atmos(ドルビーアトモス)に対応した音響制作が可能です
作り手のこだわりはいろんなところにあると思いますが、
ドルビーアトモスを取り入れると「音でもっと面白くしたい、こだわりたいけどどうやったら…」と思ってる方の頭の中に近いことを実現できると思います。
いろいろな「やってみたい」「聞いてみたい」に応えていきたいので、
今までにない立体的で高品質な音源・音響制作をお考えの方は、ぜひジーアングルにご相談ください!