実写映像とCGを違和感なく合成する上で、CGライティングは欠かせない作業過程です。
しかし、現実世界における明暗の強弱をCG上で再現することは難しく、高品質なライティングは容易にできるものではありません。
このような悩みを解消する手段として、制作会社に使われているのが「HDRI」です。
今回は、HDRIとは何なのか、またHDRIを活用するメリットとその活用方法について、具体例とともにご紹介します。
HDRIとは?
HDRIは「High Dynamic Range Images」の略語で、訳すると「高ダイナミックレンジ画像」という意味を持つ画像フォーマットです。
「ダイナミックレンジ」とは1画素あたりの値幅のことで、画像内で最も明るい部分と暗い部分の比率として表現されます。名前が表している通り、HDRIは広範囲の輝度情報を記録できることが特徴です。
例えば、普段見かける機会が多いbmp、jpegといった画像フォーマットでは、RGBの要素ごとに1画素あたり0から255までの値を取らせることで画像を表現しています。
ところがHDRIはbmp、jpegよりもはるかに上回る階調数を画像に持たせられるのです。
このような特徴は、非常に明るい場所、あるいは逆に暗い場所などの状況下で活かされます。
HDRIを使えば通常の写真撮影では露光が強すぎて白く飛びかねない部分、暗すぎて黒く塗りつぶされかねない部分にも、しっかりと輝度情報や色情報を持たせることができるのです。
CGライティングにおけるHDRIの使い方
それではCGライティングの作業過程で、HDRIの持つ広範囲の輝度情報はどのように役立てられるのでしょうか。
CGのクオリティーアップに
CGのレンダリングを行う際、HDRIの輝度情報を光源として使用すれば、通常時のライティングでは実現できないCG表現が可能です。
よりリアリティーの高い陰影表現ができ、トーンマッピングによる輝度調整をしっかり行えば違和感のない明暗表現にも仕上げられます。
また、通常では白く飛んでしまう高輝度の画像箇所についても、明るさに強弱をつけて表現できることも強みです。
ライティング情報を再利用・再編集
CGライティングは高度なテクニックが要求されるため、誰にでも可能な作業ではありません。
しかしHDRIを使えば、プロが行ったライティングの情報をそのままイメージに記録できます。
そのため他の人もそのデータを再利用し、参考にしながらCGライティングを作成できるようになるのです。
また、撮影した画像をHDRI 形式で保存しておけば、納得の行くまで光源の位置調整や強弱を変更することもできます。
このようにライティング情報を繰り返し編集できるため、CGライティングの現場における作業スピードの向上に大きく寄与するでしょう。
具体的な活用例:大手CGプロダクションの事例
HDRIの具体的な活用方法を知る上で、大手CGプロダクションの事例をご紹介します。
このプロダクションは有名映画作品におけるVFXを手掛けていますが、予算や時間の範囲内でクオリティーを落とさずにCG制作を行うために、10年以上前からHDRIを活用しているCGプロダクションです。
HDRIを使用することによって、CG制作時に画像から光の空間配置情報を取得しやすくしています。
これにより半自動的に撮影現場のライティングが再現できるようになるのです。
通常のCGライティング制作過程では、映像から光源の位置を算出するといった作業工程が必要となります。
一方、HDRIを使えばそのような手間を一切省き作業時間を短縮することができるのです。
おわりに
HDRIをCGライティングに活用すれば、明暗の細かな差異を表現できるなどクオリティーアップを図れます。
加えて画像データの再利用、再編集も容易なため、ライティング作業時間の短縮につながるでしょう。
また、活用例として取り上げた大手CGプロダクションのように、光源の位置を算出する手間も省力化できます。
高品質なCGライティングを行う上でも、HDRIは必要不可欠な存在になってくるのではないでしょうか。